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2008年8月18日 (月)

植物エネルギー 第224話 ~漢方薬用植物講座 ~漢方と有機化学~

今日は漢方薬用植物講座です。

漢方はすばらしいというお話ばかりでしたので、「食べる」をかつての私の専門分野だった有機化学を使ってお話してみましょう。さて・・・どんなお話になるのかしら(笑)。

漢方と有機化学

1. はじめに
 これまで6回の講座では漢方の基礎にして最も重要な「気」のお話を色々な角度からお話させていただきましたが、いかがだったでしょうか。私たちは誰でも等しく、いつかは必ず地球の土に返るときが来ます。重要なことはそれまでいかに心豊かに前向きに生きるかです。陰陽論で言えば、現代の物質文明は究極の「陽の気」である「物質」が極端に過剰となっています。その中に生きる私たちにとって、今の科学(化学)では証明できない「気」=「心のエネルギー」こそが、最も重要な心のクスリであるように思えてなりません。
 今回は漢方とは別の世界。ずばり、「有機化学」=「化学構造式」。そして、化学に少しだけ漢方の考え方を添えて病気予防についてお話してみたいと思います。

2. 活性酸素
 西洋医学、化学で病気予防と言えば、出てくる単語は活性酸素、抗酸化、抗酸化物質、老化予防、癌や生活習慣病の予防・・etc・・でしょう。漢方の立場から言えば、主に食事(水穀の気)を中心に、食材に含まれる成分、その効能効果よって病気を予防しようということなのですが・・・。
 さて、そこで先ず「活性酸素って何?」、「活性酸素って体のどこで発生するの?」、「活性酸素の毒性って?」から始めたいと思います。
 漢方では根源的な生命エネルギーは目に見ることのできない「気」であることは何度も本誌で述べた通りです。これに対して西洋医学、化学では人の生命活動を維持する根源的なエネルギーはアデノシン三リン酸(ATP)です。すなわち、鼻から呼吸によって吸い込んだ酸素(O2)が、人の全ての細胞内で、食事によって取り入れた炭水化物(主にグルコース)によって還元され、2分子の水が生成する過程でATPが産生されるわけです。この一連のプロセスは解糖系→TCA-Cycle→電子伝達系と呼ばれ、エネルギー代謝の最も基本的な事項としてどの生化学の教科書に掲載されています。

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                   図1

 ところで、私たちが使っている自動車のエネルギー産生について考えてみましょう。自動車はその鉄で囲まれたエンジンルーム内で炭化水素(ガソリン)が空気中の酸素を還元して一気に水(ガソリンは二酸化炭素になる)にしてしまうプロセスで火(熱エネルギー)を発生させ、それを全ての動力源にしています。人間にとって、自動車のエンジンルームに相当するのが、私たちの全ての細胞内にあるミトコンドリアになるわけです。口から摂取した炭水化物は消化管でグルコースに分解され、それが血液内から私たちの全ての細胞に入り、細胞内の解糖系で炭素数6つのグルコ-スが炭素数2個の酢酸(アセチルCoA)へ分解され、さらにそれがミトコンドリア内のTCA-サイクルと電子伝達系によって水と二酸化炭素へ変換される。その過程で化学エネルギーATPが産生される。正に自動車のエンジンルームそのものですね。

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                   図2

 突き詰めると、酸素分子(O2)が2分子の水(H2O)に還元されるということになります。このプロセスでは、都合4つの電子(4Xe-)と4つのプロトン(4XH+)が必要なのです(4電子還元)(図2)。車のエンジンルーム内ではこの4電子還元反応が一気に行なわれてしまうので、火という爆発的な熱エネルギーになるのですが、人間の細胞内ではもちろんこの反応が一気に行なわれるのではなく(一気に進むと人間自身が燃えてしまいます)、1電子ずつ酸素が還元され、最終的には水という安定な分子種へ変換されます(図2)。電子がたくさんある物質から電子の欠損している物質へ電子の流れが生じる=エネルギー(光エネルギー、熱エネルギー、化学エネルギー)が生じるということです。あたかも水が一気に高きから低きところへ落ちる力を利用する水力発電のごとく、電子の滝が生じる(図3)ということです。

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                    図3

 私たちの全ての細胞のミトコンドリア内 では電子の滝が高エネルギー化合物ATPを産生するということになります。このプロセスは私たちの     全ての細胞内で今この瞬間に起こっていて、そして私たちの寿命が尽きるまで繰り返し続いていくのです。化学構造を見れば分かるように(図2)そもそも酸素分子自体がビラジカルですから、かなり反応性の高い分子種で、これにかかればおよそ地球上にある有機化合物は時間の差はあれ酸化されてしまいます。地球の大気組成のうち20%が酸素、80%が窒素だから人間を含めた有機生命体が地球に生息できるのです。もし地球の大気組成の大部分が酸素であったなら地上の有機生命体は酸化されてしまうのです。それほどに酸素分子そのものも反応性が高いのです。
 さて、細胞内で酸素分子が1電子ずつ還元され、水分子にいたる過程で生成する活性酸素は、私たちの体の中で、今この瞬間にも生成しているのです(図2)。各活性酸素の電子配置を見ていただければ分かるように、どの分子種も反応性が高く、数多くの二重結合を持つ生体内の全ての細胞膜(脂質に二重層)、孤立電子対を有する窒素原子(アミン成分)やイオウ原子(アミノ酸や蛋白質)を酸化していきます(脂質二重層を構成する不飽和脂肪酸の二重結合が酸化されると過酸化脂質になる)(図4)。

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                  図4
 活性酸素の中でも特に過酸化水素は脂溶性が高いため、色々な生体膜を構成する脂質二重層をいとも簡単に通過することができます。核膜をも通過し、そこで非常に反応性の高い水酸化ラジカルに分解しDNAなどを攻撃し、損傷させるのです。私たちが呼吸よって酸素を取り入れることによって常に、細胞内で生体成分にとって危険で害をなす活性酸素は発生していることになるわけですから、化学を基礎とする西洋医学的見地からの病気予防、癌予防、老化予防などの際に必ずと言っていいほど活性酸素が出てくるのはこのような理由によるのです。

3. 活性酸素の除去と抗酸化物質
 人類は呼吸によって体内に、有機生命体にとって、とても危険な酸素分子を取り込み、効率良くエネルギー(ATP)を産生することによって進化し続けてきたわけです。しかしながら、呼吸よって吸い込んだ酸素は常に私たちの体の細胞内で、これまた危険な活性酸素に変換されているのも事実です。ではいったいその量はどのくらいなるのでしょう(図5)。

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                    図5

 一般的に、吸った酸素の約2~3%が活性酸素になると言われています(図5)。大人で一年間に2kgくらいになります。この2kgの酸素がもし解毒されずに体内に貯留したとすると、人間の寿命は犬や猫よりも短くなるかもしれません。呼吸によって酸素を体内に取り込んでエネルギーを産生する地球上の全ての有機生命体は、進化の過程でこれらの危険な活性酸素を取り除くためにSOD(超酸化物分解酵素)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼのような解毒酵素を身に付けてきました(図5)。全く知れば知るほど生命の神秘に感動せざるを得ません。
 しかしながら、SODについては、加齢とともにその酵素活性が減少し、さらには、SOD活性の低下度は人によって大きく差があるとも言われており、その人の寿命はその人のSOD活性によって決まると極言する研究者もいるほどです。このように、化学的な考察をしていくとどんどん悲観的になっていくと思いませんか。この段階までくると、これまでお話してきた漢方に学ぶ病気予防とは相当かけ離れていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。今回はまだまだ化学を使ったお話をさせていただきます。
 西洋医学的見地から言うと、加齢によるSOD活性の低下、個人差によるSOD活性度の差は毎日摂取する食事によってかなり防ぐことができます。食品に含まれる活性酸素を分解してくれる物質、すなわち酸素よりも電子をたくさん持っている還元物質=抗酸化物質をいつも血中濃度高く存在させることができれば、細胞内で生成した活性酸素が安定な分子種に還元分解されることになるはずです。そこで私は、日本人が当たり前のように食べている食材について調べてみました。結論から言えば、日本食というのは化学的にも世界で一番ということが分かりました。図6をご覧になって下さい。活性酸素を除去してくれる有機化合物=抗酸化物質が満載です。

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                       図6

 次の項では数ある抗酸化作用を有する有機化合部群の中から最もポピュラーなポリフェノール類とカロテノイド類の抗酸化作用についてお話しましょう。

3. 日本の食材に含まれている色々な抗酸化物質
3―(1). ポリフェノール(polyphenol)
 活性酸素を除去してくれる抗酸化物質と言えばポリフェノールが最も有名なものでしょう。ポリフェノールの定義は「芳香族炭化水素の2個以上の水素がヒドロキシル基(水酸基)で置換された化合物の総称」です(図7)。

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                   図7

 ポリフェノール類は、解糖系路から生じるホスホエノールピルビン酸とペントースリン酸経路で生じるエリスロースー4-リン酸から、シキミ酸経路という生合成経路によって、地球上ではおそらく植物だけがその体内に産生することのできる非常に酸化還元電位が高い(電子を渡し易い)有機化合物の一群です。お茶、ワインのカテキンや各種タンニン類、大豆製品のイソフラボン類、イチゴやブルーベリーの赤や紫の色素成分であるアントシアニン類、タマネギに含まれるケルセチン、蕎麦やアスパラガスの穂先に含まれているルチン、胡麻のセサミノール(図8)。

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                  図8

 カタカナにすると全て異なる有機化合物のように思えますが、これらの化学構造はほとんど類似していて、ベンゼン環上に並んだ2つの水酸基(カテコール構造)が実際に活性酸素の還元反応に携わる部位になります。一時はポリフェノールを単独で摂取することにより、あたかも全ての人が皆等しく病気予防が可能であるかのようにマスコミで大きく、さかんに取り上げられ、「誰でも赤ワインで病気予防!」などという時代もありました。ポリフェノールだけで病気予防ができるほど人間の体の仕組みは単純ではないし、効いた人の話だけを取り上げ、効かなかった人の話は無視するような風潮には眉をしかめたものです。いずれにしても、化学で説明できるのはほんの一部の現象だけであることをわきまえておくことは、化学を学んだ者の最低限のマナーです。

3―(2). カロテノイド(carotenoid)
 カロテノイドとは天然に存在する色素(黄色、橙色、紅色など)成分の中で、化学式 C40H56 の基本構造を持つ化合物の誘導体のことでテトラテルペンともいいます。植物の細胞内でグルコースが解糖経路に分解されたアセチルCoAがが3分子縮合したHMG-CoAが出発物質になり、コレステロールの生合成経路でもあるメバロン酸経路によって再合成されます。メバロン酸経路では、その過程で極性の高い酸素原子がどんどん無くなっていきますので、最終的には非常に脂溶性の高い有機化合物の一群になります。トマトの赤色、ニンジンやカボチャの橙色、スイカ、鮭、海老、蟹のピンク色。全てカロテノイドの一種でそれぞれに固有の名前がついています(図9)。図9からも分かるように、極めて類似した化学構造有しています。

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                   図9

 それぞれの化学構造に共通する最大の特徴はなんと言っても多数の炭素―炭素二重結合が連続して繋がっているということです(共役二重結合)。共役二重結合に存在するπ電子は、共役結合を形成する炭素間に共有する電子の集合体になりますから、自ずと酸化還元電位が高く(電子を渡し易い=還元能力が高い)なり酸化還元電位の低い(電子を受け取り易い=酸化能が高い)分子、すなわち活性酸素類を還元、トラップする(抗酸化作用)という仕組みになるわけです。
 ポリフェノール類とカロテノイド類の抗酸化機構を簡単にまとめると図10のようになります。

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                   図10

 このように生体成分を傷つける活性酸素類をトラップすることから病気予防、がん予防などに効果があるとされたわけです・・・が、本当にこれらの化合物を単独で摂取すれば予防できるのでしょうか。例えば、ポリフェノール類酸素を還元トラップし終えるとオルトキノンに、多数の共役二重結合を有するカロテノイド類が酸素をトラップすると一時的に非常に毒性の高いとされる過酸化脂質と同じ構造を有する過酸化物になります(図10)が、これらの化合物の毒性試験を行ったというお話を私は未だ知りません。β―カロテンが発がんプロモーション過程を抑制することが分かり、「がん予防に効果あり!」と一世を風靡したのは十数年前だったでしょうか。その後の米国の臨床研究で摂取過多の場合、逆にプロモーション過程増加傾向が認められ、今では、全く話題にも上らなくなりました。化学構造と酸素の特性が分かっていれば容易に想像できたはずなのですが・・・。

4. おわりに
 今回は漢方とは一見すると対極にある化学を使って病気予防についてお話しました。いかがでしたでしょうか。私は決して化学を否定するつもりはありません。ですが・・・化学で分かっていることは本当に微細な部分に過ぎません。最新の化学を妄信するのではなく、冷静に遠くから静かに見て、使える部分は大いに利用するべきだと思っています。いかに効能効果があるモノ(有機化合物に限らず)でもそれ単独だけでは何事も解決することはできないことはちょっと考えれば誰もが分かるはずです。色々な素敵なモノを足し算してこそ、予想以上の効果が得られるはずなのですが・・・。西洋薬も切れ味の良い薬であればあるほど、その副作用も大きいはずです。色々な漢方方剤が複数の生薬から構成されているのもうなずけることです。
 さて最後に人体に無毒で安全な究極の抗酸化物質を紹介して本稿を終わりにしましょう。
 人体に無毒で安全な究極の抗酸化物質とは・・・還元型のビタミンCです(図11)。

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                                   図11

 酸化還元電位も相当高く過酸化物などもいとも簡単に還元して水酸基に変換してしまう優れものです。還元型のビタミンCを空気中に放って置くと、1時間ほどでその20%が酸素によって酸化型のビタミンCになってしまうほどです。
 しかしながら、この還元型のビタミンCとても、口から多量に摂取したとしても、化学構造的に非常に極性が高い(水に溶けやすい)ため、体内には吸収され難く、そのまま尿として体外に排泄されてしまいます。ですから、還元型のビタミンCを含む食材(獲れたて、もぎ立ての野菜、果物・・)他の食材といっしょに笑いながら(感動しながら)食べる。これが一番の病気予防方法ではないかと思います。

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