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2010年12月26日 (日)

1188話 ~身近なモノから化学する(5) ~マーガリン&ショートニングに含まれるトランス脂肪酸 ~

 今年最後の「身近なモノに化学する」デス。今回は、ずばりトランス脂肪酸って何?なぜ問題なの?』を簡単に解説します。

 昨日の北海道新聞の生活欄にも、見開きカラーで「トランス脂肪酸と健康への影響!」が特集されていました。私がトランス脂肪酸を知ったのは北大薬学部時代ですから、もう20年前くらいに、化学論文に掲載されていたのをたまたま読んだです。もうあまり覚えていませんが、自己免疫疾患、特にクローン病や大腸性潰瘍炎の原因かもしれない・・・のようなことが書かれていて、ショックを受け、それ以後マーガリンを食べなくなったので覚えているのでしょう。

 それではまずトランスという言葉の意味から参りましょう。

 これは、有機化学では、あまりにも常識すぎて説明すること自体が難しいのですが・・・、一言でいえば、二重結合をもつ有機化合物には、ほとんどのケースで、組成は同じでも性質の違う2種類の化合物が存在しうるということです。トランスに対してシスという言葉で表されます。

 ちなみに、液体の食用油に含まれる脂肪酸は、シスです。

 では、トランスシスとは何かですが・・・、下図を見てください。

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 二重結合(水色部分)を有する有機化合物でシス型とトランス型の化合物を有する一番シンプルなのが、ブテンButeneです。

 二重結合を有する化合物において、二重結合部分の結合角は120°で、この結合部位での自由回転できなくなっています。ですので、この部分は平面(紙のように平たい)構造で、空間的にリジットに固定された状態になっていて、この二重結合部分で分子全体の空間構造がある程度規定されることになります。

 そして、ブテンは炭素4個、水素8個からなる化合物ですが、幾何学構造的にも性質的にも全く異なる2種類の化合物が存在し、専門用語では異性体といいます。緑色の部分がメチル基といって、空間的に水素原子よりもはるかに大きく、一番遠い位置にあるのがトランス型ブタンで、お隣さんどうしに存在しているのがシス型ブタンです。安定度は当然大きなものどうしが遠くに存在しているトランス型が安定な二重結合になります。

 ですから、トランス脂肪酸というよりは、トランス型脂肪酸と言った方が分かりやすいかもしれませんね。

 ところで、天然食用液体油の中には、何故かシス型の脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸・・・etc・・)しか含まれていません。

 一方、個体食用油のバターは、ほとんどが、二重結合を持たない飽和脂肪酸からなっています。つまり食用液体油の構成しているシス型二重結合に全部水素分子を付加させることができたら、バターになるってことです。二重結合を持たない飽和脂肪酸が集まると、専門用語でファンデルワールス力(分子間分子間相互作用)が発生し、タイトな重なりをとることが可能になり、密度も大きくなるので固体になります。

 そこで人間は、考える。オリーブ油をパンに塗るには液体なのでこぼれてしまうし、冷蔵庫に入れたバターをパンに塗る時には、固まりすぎていてめんどうだ! 便利で楽にパンに塗る油はないものだろうかと・・・(笑)。

 そこで、少しだけ化学を知っている人間が考えるんですねぇ~(笑)。食用液体油の中に含まれるシス型脂肪酸の二重結合を全部じゃなく、中途半端に水素分子を付加させてやれば、きっと液体と固体の中間の固さを持つ油ができるだろうと・・・・、で、その通りになってその化学者は「オレって人の役にたてた、うれしい!すごい!」ってことになったのではないかしら(笑)。私もそんな時代があったので、よーく理解できます。

 ここで使う反応が、ガス状水素分子を使う接触還元という反応です。先日鈴木明さんがノーベル賞をとりましたが、鍵となったのがゼロ価のパラジウム(Pd)金属です。この金属を触媒として用いれば、二重結合に水素分子を付加させ、飽和脂肪酸にすることが可能になります。他にも白金(Pt)、ニッケル(Ni)でもこの反応を起こすことができます。まあコストパフォーマンス的には、ニッケルが一番安いです。

 ところが・・・、このゼロ価の金属たちはですね・・・、不安定なシス型二重結合を、安定なトランス型二重結合に変えちゃう性質もあるんですね(汗)。マーガリンやショートニングの中には、液体油に水素を付加させる反応中に、シス型二重結合が、一部トランス型二重結合を持つ脂肪酸になるので、トランス型脂肪酸混ざっちゃうことになるんです。そしてこのトランス型脂肪酸を持続的に私たちは摂取してきたのです(もちろん私もですよ)。

 下図に概略を示しました。

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 ところで、シス型二重結合をもつ、シス型脂肪酸は、私たちの体の中で、とてもとても重要な役割を担っているのです。それは、私たち人間のすべての細胞膜を構成している一部分となるからです。全ての細胞膜でです。つまり細胞膜脂質二重層ですので、その中にシス型脂肪酸は組み込まれます。シス型でなければならない理由がちゃんとあるのです。細胞膜を構成する脂質二重層の構成脂肪酸が、二重結合を持たない飽和脂肪酸だったとしたら、すべての細胞が、バターのように、個体になってしまいますから、赤血球だって、血栓になってしまうかもしれませんよね(笑)。シス型脂肪酸は、私たちのすべての細胞膜表面に流動性を持たせるために必須なのです。

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 したがって、トランス型脂肪酸がこの細胞膜に組み込まれたりすると、その細胞膜は元々自分の持っていた細胞の構造とは異なる物質になってしまうわけですから、なんらかの理由で、自分の持っている生体防御機構である免疫システムが、トランス型脂肪酸が組み込まれた細胞を敵と認識して、攻撃してしまう可能性だって否定できない。というか、大いにありうることですね。

 なぜ大腸の細胞だけが非自己と認識されたりするのか?、なぜ食べた人全員がそうならないのか?は、私には分かる術はありません。ただ、これが社会問題になったとしても、作った側、それを認めた側は、因果関係が、化学的に証明できないという理由でうやむやにすることになるはずです。まあ現在の化学のレベルから見ると、当時の科学のレベルではしょうがなかった・・・ということになるのでしょうが・・・・。ただ、現在最高レベルの化学で大丈夫だとされているコト、モノであっても、数十年で先には、そのもてはやされた化学の知識が悪に認定されることなんて山ほどありますよね。水俣病だって、サリドマイド事件だって、作った側は善意だったかもしれませんが、それが、究極の悪意変わることなってザラにあります。歴史に学ぶということは、こんなことも含まれるのではないでしょうか。

 私は、決して化学を否定するものではありませんが、神のように信じるのもどうかと思います。科学・化学の成果を科学・化学を知らない人が使うことも否定しませんが、その功罪も考えられるように知識のレベルアップをしていくことも必要でしょうし、また、何の化学的根拠もないのに、数百年レベルで良いとされているものにも目を向ける必要はあるでしょう。「そんなもの化学的根拠はない!」と断じる人ほどこそ、おごり高ぶった化学者であることは間違いなさそうです。「いらないものは何もないのですよ」(笑)。何百年単位の長いスパンで見ると、「化学で地球の営みは分からなないことだらけである」という結論を出すためにも、化学を全力でやる人たちもまた必要なのでしょう。今、私は、「証拠のない、エビデンスのないもの」の方がステキなモノ、コト、人が多いことに気が付いています。

 そんなことに気が付いている人が、たーくさんいることも知っています。知っちゃった人は、どんどん先に進んで地球のお役にたつように生きましょうよ(笑)。

 堀田式化学を5回ほど書いてみましたが、楽しく書けた。8年前は、結構トラウマチックになってましたが・・・、なんか、ずいぶん進んでるなぁ~って思えました。

 堀田式化学・・・知ってる30%くらいを伝えるのががちょうど良い!

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